全身がとても寒い。
寒くて冷たくて、息が苦しい。 体が重い。思うように動けない。そう、まるで水の中にいるようだ。ごぼり、口から空気の泡が漏れた。
本当に水の中にいるみたいだった。同時に気づいた。――これは夢だ。
私が……フェリシアが八歳のとき、義妹の手で冬の池に突き落とされたあの日の夢。(ねえ、待って。行かないで)
もがき苦しんでいる小さな女の子に呼びかける。
あれは、フェリシアだ。 彼女は苦しみを諦めて、そのまま命を手放そうとしていた。(行っては駄目。もう少しだけ頑張って!)
けれどその子は首を振って、いなくなってしまった。
それから意識が急浮上する。 おおごとになるのを恐れた侍女が、フェリシアを池から引き上げて助けたのだ。 それからフェリシアは『私』になって、日常が再開されてしまった。そうか。
今、やっと分かった。 私は転生したんじゃない。 フェリシアの体を乗っ取ってしまったんだ。ごめん、フェリシア。助けてあげられなくて。
ごめん、フェリシア。その後もずっと辛い思いをさせて。 こんなことならもっと早くに実家を逃げ出して、辛い思い出から遠ざかればよかった。ふと、指先に何かが触る。
手を動かして輪郭を確かめてみると、箱だった。 あぁ、そうだ。 フェリシアの本当のお母様の形見、嫁入り道具のネックレスが入った箱。 何もかも取り上げられる前に隠しておいて、帝都を出るとき持ち出したんだっけ。これは我ながらよくやったと思う。
フェリシアの心が少しでも残っていて、動けたのかもしれない。だったらとても嬉しい。夢の中、ぼんやりとした意識で思う。
(私も少しは、役に立てたかな……)
「フェリシア先輩!」夜なべして書き続けた英雄叙事詩二次創作が、ついにキリの良いところまで書き上がった。 まだ完成には程遠いが、『第一部・完』くらいの完成度にはなったと思う。 この原稿は要塞のメイドたちの間で何度も回し読みされている。彼女たちの意見を取り入れて改稿を何度か行った。 既に手応えはしっかりとある。 この国の女子たちにもBL文化は受け入れられると分かった。であれば、次の段階に移行しよう。 すなわち、BL小説の出版である! この世界の文化レベルは中世どころか古代ローマとかそのへんだ。 だから当然、活版印刷はない。木版印刷すらない。 出回っている書物は全て手書きの写本になる。 そして古代文化の最大の特徴として、書物は全てが巻物なのだ。 冊子ではなく巻物。 紙も羊皮紙や前世の植物紙ではなくて、パピルスになる。 まあ、古代中国などは竹簡・木簡だったというから、それに比べればだいぶマシだろう。 それに巻物は冊子よりも装丁コストが低い。 手作りで冊子の本を作るのは大変だ。ページを整え、綴じて、表表紙と背表紙を作る。その手間はかなりのものになる。 その点、巻物なら紙を継ぎ足して巻けばいいのだから。 とはいえ、パピルスはそれそのものがそこそこお高い。 ましてや人力の写本で複製するのだ。このユピテル帝国において、書物がそれなりに高級品なのはどうしようもないことだった。 普通の平民ではまず買えない。文学好きの貴族やお金持ちであれば、自宅に書庫を持っているそうだが。 私の実家は一応貴族だけど、あいつら本を読むような教養も頭も持っていない。当然、書庫などなかった。あるのはせいぜい、所有農園の帳簿くらいだ。それも使用人に任せっきりで、自分たちは文句を言ってばかりだったっけ。 あの様子じゃたぶん不正な裏帳簿とかがある。まぁそれは私の知ったことじゃない。 とにかく、そういう事情もあって、この国の本屋は前世の感覚で言えば少ない。 けれど存在しないわけではない。帝都まで行けばたくさんの本屋があるし、この辺境の
義妹と私は半年しか生まれが違わない。 つまりフェリシアがお母さんのお腹にいた頃にはもう、父は愛人とよろしくやっていたということだ。 控えめに言ってクソである。 私は前世成人女性の記憶があるからいいものの、本当に幼かった『フェリシア』はかわいそうすぎる。「そんな事情があったとは……」 最後に軍団長が深いため息をついた。「承知した。きみの希望を聞き入れよう。フェリシア嬢がここに残ってくれるのは、喜ばしいことだからな」「ありがとうございます……!」 これからもBLパラダイスで暮らせる! そう思うと嬉しくて、はらりと涙がこぼれてしまった。 なんか男性三人が絶句しているが、なんじゃ。 私は涙をさっと拭うと、笑顔を浮かべた。「今後もメイドのお仕事、頑張りますね。それに光の魔力の練習も。私の力がゼナファ軍団に役立てるなら、何だっていたします」「あぁ、頼んだ」 話は終わった。一礼して部屋の外に出ると、廊下でメイドのみんなが待っていた。「軍団長のお話、どうでしたか?」 リリアが心配そうに聞いてくるので、私は微笑んだ。「帝都に帰らないかと言われたけど、断ったわ。だって私、この町とみんなが大好きなんだもの!」「フェリシア! あんたって子は、もう!」 メイド長がぎゅうぎゅうに抱きしめてくる。 他のメイドたちに囲まれて、笑いあった。 周囲を見渡せばBL天国。そして腐女子仲間。萌えはたっぷり、友だちたくさん。暮らしやすくてご飯はおいしい。仕事も執筆も頑張っちゃう。 あぁ、幸せだなあ! 心からそう思って、みんなと一緒に笑い続けた。+++【三人称】 フェリシアが辞した執務室にて。 軍団長とベネディクト、クィンタは彼女の言葉と態度に深く心を打たれていた。「小さい頃から家族に疎まれて、それなのにあんなに健気で。いい子すぎるだろ、フェリシアちゃん」 クィンタが言えばベネディクトもうなずいた。「この要塞町は辺境で軍団兵の拠点。帝都育ちの令嬢が住むような場所ではない。けれど彼女は雑事を率先してこなし、嫌な顔ひとつしない。ましてやあの聖女の力。傷つき血まみれになったクィンタを迷わず救った、神々しい姿」「ああ。あれだけの瘴気がきれいさっぱり消えたんだ。今でも信じられねえよ。ぞっとする瘴気が暖かい光で消し飛んで、命を繋いでくれた」
「フェリシア嬢。よく来てくれた」 軍団長は立ち上がって私を迎えてくれた。 ベネディクトとクィンタは礼の姿勢を取る。「体調はもう平気かね?」「はい、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」「当然のことだ。きみは死に至る傷を見事に癒した、真の聖女なのだから」 軍団長の言葉に目を丸くしていると、ベネディクトとクィンタが進み出た。「フェリシアちゃんは命の恩人だ。おかげで死の淵から舞い戻ることができた」「これを助けてくれて感謝している。聖女の奇跡を目の当たりにして、心から感動した」 そうして二人揃って私の足元に跪いた!「あ、あの! どうか頭を上げてください!」 そういう姿勢は私じゃなくてお互いにやってください。 そのほうが私、元気になるから。 というか、イケメン二人が跪いてるの絵になるな。 これで跪く相手が軍団長だったらどうだろう。……うむ、ええのう。 軍団長を頂点とした三角関係、なかなかオツ。 などと私が妄想に興じていると、彼らは立ち上がった。ちぇ。 軍団長が改めて口を開く。「しかし聖女の力が本物であるならば、帝都の皇帝陛下はいったい何をなさっておいでなのだろう。聖女は皇家に嫁ぐ決まりなのに」「婚約破棄と帝都追放をされたと聞いたが?」 ベネディクトが言うと、クィンタが顔を歪ませた。「何だそりゃ。フェリシアちゃんを手放すなんざ、ありえないだろ。皇帝陛下は頭腐ってんのか」「クィンタ。わきまえろ」 ベネディクトは言葉ではそう言うが、不満そうな顔をしている。 軍団長が続けた。「何か行き違いがあったのだろうか。フェリシア嬢、今回の件を陛下に報告して帝都に戻れるよう取り図ろう。少し待っていてくれ」「いいえ、軍団長。報告は不要です」 私が言うと、皆がこちらを見た。「帝都への報告は不要? どういう意味かな」 いつもは穏やかな軍
全身がとても寒い。 寒くて冷たくて、息が苦しい。 体が重い。思うように動けない。そう、まるで水の中にいるようだ。 ごぼり、口から空気の泡が漏れた。 本当に水の中にいるみたいだった。 同時に気づいた。――これは夢だ。 私が……フェリシアが八歳のとき、義妹の手で冬の池に突き落とされたあの日の夢。(ねえ、待って。行かないで) もがき苦しんでいる小さな女の子に呼びかける。 あれは、フェリシアだ。 彼女は苦しみを諦めて、そのまま命を手放そうとしていた。(行っては駄目。もう少しだけ頑張って!) けれどその子は首を振って、いなくなってしまった。 それから意識が急浮上する。 おおごとになるのを恐れた侍女が、フェリシアを池から引き上げて助けたのだ。 それからフェリシアは『私』になって、日常が再開されてしまった。 そうか。 今、やっと分かった。 私は転生したんじゃない。 フェリシアの体を乗っ取ってしまったんだ。 ごめん、フェリシア。助けてあげられなくて。 ごめん、フェリシア。その後もずっと辛い思いをさせて。 こんなことならもっと早くに実家を逃げ出して、辛い思い出から遠ざかればよかった。 ふと、指先に何かが触る。 手を動かして輪郭を確かめてみると、箱だった。 あぁ、そうだ。 フェリシアの本当のお母様の形見、嫁入り道具のネックレスが入った箱。 何もかも取り上げられる前に隠しておいて、帝都を出るとき持ち出したんだっけ。 これは我ながらよくやったと思う。 フェリシアの心が少しでも残っていて、動けたのかもしれない。だったらとても嬉しい。 夢の中、ぼんやりとした意識で思う。(私も少しは、役に立てたかな……)「フェリシア先輩!」
「瘴気……」 瘴気については帝都にいるときに学んだ。 魔物の力の源泉で、人間にとっては猛毒となるもの。 五大属性の魔力とは全くの別物で、聖女の力によってのみ浄化されると言われている。 聖女の力。 私はベネディクトを振り仰いだ。「もしきみが本当に聖女の力を持っているのなら――」 彼は手を握りしめる。 それから迷いなく床に膝をついた。……私の前に跪くように。「どうか、こいつを助けてやってくれ。こいつはここで死んでいい男じゃない。そのためならば、私は何でもしよう」「やめろ、ベネディクト。フェリシアちゃんを、困らせるんじゃねえ……ガハッ」 クィンタが血を吐いた。 怪我は確実に悪化している。このままだと彼は本当に死んでしまうだろう。 ――助けたかった。心から。 だって私は、ベネディクト×クィンタが最推しカプなのだ。 こんな形で推しを失いたくない。推しは末永く幸せにならなくてはいけない! それに涙を流し続けている、魔法隊の少年。 彼だってなかなかの逸物だ。命の恩人の憧れから、きっと素晴らしい攻め様に成長してくれるはずなんだ。 でも私は名ばかり聖女で、昔の聖女が使えたはずの光の魔法は身につけていない。 別にサボっていたわけじゃない。光の魔法それそのものがあやふやな伝説で、誰も教えてくれなかった。 先代の聖女様はずっと昔の人。もう記録は残っていなかったのだ。「記録……」 ふと、思い出した。先代の聖女様が書き残したと言われている古文書のことを。 古文書というが実は聖女様の日記帳で、他愛もないことばかり書かれていた。今日の天気だとか、道端のお花がきれいだったとか、夫である皇帝がイケメンだとか。 その中にこんな一文があった。『今日もわたしは幸せです。わたし自身が幸せであり、他者と国の幸福を祈ることこそが聖女の力の源となる』 あまりに抽象的で、当時は読み飛ばしてしまった文。 聖女の祭壇にも似た記述があったっけ。
それは突然の出来事だった。 昼下がりの平和な時間を打ち砕くように、鐘の音が高く鳴り響く。「魔物の襲撃だ!」「位置は北に三マイル! 昆虫系の群れ!」 情報が怒号のように交わされる。 兵士たちは即時に訓練を中止して、要塞前の広場に集まった。 慣れた動きで隊列を組み、整然とした列を作る。「皆の者! 久方ぶりの襲撃だが、たるんでいる者はいないな?」 整列した兵士たちを前にして、軍団長が声を張り上げた。 その声はいつもの穏やかなものではなく、軍人としての威厳に満ちていた。 隣には副軍団長のベネディクトが控えて、鋭い視線を向けていた。「この町を、国を守るため、人々に害をなす魔物は速やかに始末せねばならん。――開門、出撃!」 オオ――ッ! ときの声が上がる。 騎乗した軍団長とベネディクトを先頭に、兵士たちは続々と門を出ていった。「魔物の襲撃……。皆さん、大丈夫でしょうか」 兵士たちが去った要塞の中で、私は不安な思いに駆られる。「きっと大丈夫ですよ。ゼナファ軍団の兵士たちは、歴戦の強者ですから」 リリアが私の手を取って励ましてくれた。 メイド長は息を吐く。「ここしばらく魔物が出なかったから、安心していたのに。やっぱりこうなってしまうんだね」 私が要塞に来てからもう二月以上になるが、魔物の襲撃は初めてだった。「いつもはもっと頻繁なのですか?」「ええ。一ヶ月に一度以上は魔物討伐が行われていたわ。そのたびに怪我人が出て……」「ずっと平和でいてほしかったのに」「カプでお気に入りの兵士さん、そうじゃない人も、どうか無事で」 メイドたちも落ち着かない様子で小声で話している。 メイド長が両手を打ち鳴らした。「さあさあ、みんな! 私たちが湿っぽくしていたって仕方ない。いつ
クィンタの自認はともかく、揉め事か……。 クィンタの言う『熱い視線』は、間違いなくBL妄想関係だと思う。兵士の皆さんの一挙動は、今や私たちの萌えの源泉。注目してしまうのは致し方ない。 けれどそれが兵士を勘違いさせるのはいけない。私たちは兵士その人が好きなのではなく、彼から感じられるBLの波動を妄想として愛しているのだ。 勘違いした兵士が強引にメイドに迫ったら、お互い不幸になるだけだろう。「分かりました。私からメイドの皆さんに話しておきます。……それにしてもクィンタさん、『熱い視線』が勘違いだとよく分かりましたね?」「言ったろ、俺はモテるからな。メイドちゃんたちのあれは、男の誰かを好いているのとは違う感じだ。なんつーか、有名な劇俳優の追っかけファンとかに似てる気がした」 おお、鋭い。 でも劇俳優ファンは、その人の恋人になりたいと思っている層も一定数いるから。 我々はまた違うのである。そういう系統は腐女子ではなく夢女子と呼ぶ。「あとなぁ……」 クィンタはげんなりした様子で肩をすくめた。「俺がベネディクトと絡んでいると、妙に視線を感じるんだ。あれ何? フェリシアちゃん、分かる?」「いいえ、さっぱり分かりません」 私はいい笑顔で答えた。 クィンタは何か言いたそうだったが、休憩時間の終わりを告げるラッパが鳴って彼は戻っていった。 さて、クィンタのおかげで問題が起こる前に気づけた。彼には感謝しておこう。 その日の就寝前、執筆はお休みしてメイドたちを集める。 クィンタから聞いた話を伝えると、案の定メイドたちは不満そうだった。「兵士さん自身に気があるわけではありません。勘違いされても困ります」 と、リリアが頬をふくらませている。「でも、気をつけるのは私たちだわ。男性から強引に迫られて怖い思いをするのは嫌でしょう? 勘違いしたお相手も気の毒だしね」 みんなうなずいた。「だからなるべく、萌えは
興奮して詰め寄ってくるメイドたち押し留めながら、落ち着かせながら言う。「みんな、ありがとう。でも推し活は生活に負担がかからない程度にね」「推し活?」「さっきの物語みたいに、好きなことにお金や時間をかけることよ。そりゃあ楽しいけれど、普段の生活をしっかりこなしてからの話だから」「それはそうだよね。分かったわ。気をつける」「ええ、お願い。それから夜の執筆を、これまで通り見逃してほしいのだけれど」「もちろん!」 メイド長は力強くうなずいた。「何なら昼間も時間が取れるよう、仕事を調整するけれど?」「それは駄目です。私はメイドとしてしっかり働いた上で、物語を書いていきたい。私はこのゼナファ軍団のメイド、みんなの仲間だもの」 まあ本音を言えば、少数ファンのカンパだけで専業作家になるほどの勇気がない。 今は本業(メイド)をこなしながら、生活基盤を作りながら、兼業作家としてBL布教に邁進する時期である。 専業になるのはしっかり売れるようになってからで遅くないのだ。 じゃないと生活の不安があるもの。夢を追いかけるのは大事だが、足元の生活も大事。「フェリシア先輩……!」 リリアが駆け寄って手を握ってきた。「わたし、先輩についていきます。物語執筆のお手伝いも、がんばります!」「あっ、リリアずるい! あたしだってフェリシアのファンになったんだから」「私も!」「あたしもー!」 メイド部屋の中の熱気は全く収まらない。 この熱い空気の中で、私たちは存分に萌え語りを楽しんだのだった。 リリアに続きメイドの皆さんが腐女子仲間になってくれた。 休憩時やちょっとした時間に萌え語りができるようになって、私の生活はますます充実している。 今日はこんなシーンを目撃した。 食いしん坊の兵士が厨房につまみ食いにやって来て、
執筆の時間は変わらず夜に取っている。昼の仕事に支障が出ないよう、こっそりと。 夜寝る前にメイド部屋を抜け出すのだが、私一人からリリアと二人になった分、ずいぶん目立ってしまったらしい。 メイド長から呼び出されて、どういうことかと聞かれてしまった。「フェリシア先輩は、とっても素敵な物語を書いているんです!」 息巻くリリアに、どうどう、と制止をかける。 メイド長と他のメイドたちは不思議そうな顔をしていた。「物語ですって?」「フェリシアさんが?」「さすが、貴族のお嬢様のすることは違うわね」 幸いなことに、彼女らの様子に嫌悪は見えない。ただ不思議そうにしているだけだ。 メイド長は首を振った。「けど、消灯時間以降に出歩くのは規則違反よ。今後はやめなさい」「すみません。それはできません」 私がきっぱり言えば、メイド長はますます困惑した様子になった。「なぜ? 住み込みメイドである以上、規則には従わないと駄目よ」「いけないことをしているのは分かっています。でも物語の執筆は――私の使命なのです」 私は両手を胸に当てた。 これだけは絶対に譲れない。私の身命を賭してでも、やりとげなければならない大事業なのだ。「使命」 言い切ると、彼女は眉間に深くシワを刻んだ。困惑がにじんでいる。「そこまで言うのなら、その物語とやらの内容を聞かせなさい。聞いて判断しましょう」「……はい!」 そうしてメイドたちの前で、私は語り始めた。 神々と英雄の戦いの物語を。 私が語るのは誰もが知る古典物語であって、そのままではない内容。熱い男たちの絆と友情と、愛と憎しみに主眼を置いた物語だ。 とりあえずメイドの皆さんはBL初心者なので、えっちなシーンなどは省いてブロマンス的に語ってみた。あまり濃厚な絡みは初心者には刺激が強すぎるからね。 メイドたちの反応を見ながら、少しずつBL要素を濃くしていく。